企業のScope3対応に向けた航空貨物輸送でのSAF活用促進事業

About

本事業は企業のサプライチェーン全体におけるCO2排出量削減を目的に、荷主企業が貨物代理店を通して行う航空貨物輸送におけるSAF利用時に要する経費を支援します。
今回は実際本事業をご利用いただいている荷主企業様にインタビューを行い、利用のきっかけや今後の展望を伺いました。

Interview

ご利用企業様インタビュー

#01interview
本田技研工業株式会社
サプライチェーン購買本部
サプライチェーン推進部
事業者紹介

本田技研工業株式会社(Honda)は、二輪・四輪・パワープロダクツ事業を中心に、総合モビリティカンパニーとして航空機や電動モビリティなども含めた幅広いモビリティやサービスを展開する企業である。
Hondaは、サステナブルな社会の実現に向けて、2050年にHondaの関わる全ての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラルを全社目標として掲げている。
今回は、主に物流を管理・推進するグループの中から、カーボンニュートラルへの戦略を練るメンバーの方々に、SAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)に関しての現時点での考え方や、本事業利用のきっかけなどをうかがった。

Q.環境に関してどのような取り組みをされていますか?
A.

Hondaのカーボンニュートラルへの取り組みに関しては、ホームページ1にも広く掲載しておりますが、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、設備投資を進めていくにあたり、とある指標を設けて判断をしています。
HondaではインターナルカーボンプライシングICP2という考え方を採用していて、CO2 1tの削減は1万5千円の価値に値するという指標を設定して、日々の業務の中により環境意識を取り組めるよう推進をしています。

また、2050年や2030年の中間目標に向けて、カーボンクレジットをどのように取り扱うべきかという問題や、そもそも、カーボンニュートラルを推進する手段としてバイオ燃料の活用など様々な手法がある中で、どの手法をとることが最適か、日々オールホンダで議論を重ねています。

我々物流部門の取り組みでいうと、2024年7月にHondaが掲げるサステナビリティ方針説明会をサプライチェーンに関連するお取引先の方々向けに開催しました。この説明会では、持続可能な物流の実現に向けた取り組みとして、省エネ物流・高効率物流・ホワイト物流の3つの観点を配信しました。これにより、物流お取引先様に我々の環境取り組み方針を理解していただけたと確信しています。

Q.本助成事業に参画する以前からSAFの活用には関心はありましたか?
A.

サプライチェーン推進部が管理する物流ではトラックや船、飛行機という様々な輸送形態が存在しますが、特にKD物流3においては基本的に船舶によるコンテナ輸送を行っています。
しかしながら、遅延などのイレギュラーの発生により、輸送が1カ月遅れるといった、リードタイム(発注から納品に至るまでの時間)に影響を及ぼす事態の防止のために、急遽、航空輸送を活用して船舶輸送を補完するということがあります。
我々が運びたいタイミングでSAFを使った輸送モードがあるかと、通常より輸送コストが上がってしまうことが問題ではありましたが、部門全体として環境意識が高まっていたので緊急の際でも極力環境に優しい輸送手段を採用したいという思いがあり、SAFの活用には関心を持っていました。

Q.今回、SAFを活用した航空貨物配送を利用してみようと思ったきっかけや目的は何ですか?
A.

以前から各航空代理店様よりSAFに関する様々なプログラムのご提案を受けており、輸送モードの充実は伺っていましたが、コスト面からSAFの利用に踏み切れなかったという状況でした。しかし、2024年は本助成事業のお話を伺い、社内的にもSAFを利用したプログラムを活用してみようという機運になりました。

本事業への参画について、社内関係者の環境意識も少し変わってきたことや、自部署内での話でもありましたし、事業への参画について比較的容易に理解を得ることができました。
本助成事業への参画を契機として、今後もSAFの利用などカーボンニュートラルを推進する取り組みを続けていかないといけないという雰囲気が社内の中により広がっていったと思います。

Q.今後、SAFをどのように活用していきたいと考えていますか?
A.

今回、航空貨物輸送でのSAF活用促進事業を活用して航空輸送を行いましたが、これはまだトライアルという位置づけです。最終的にはSAFを利用してカーボンニュートラルを達成しなければいけないという認識はあるものの、現時点では本格的に運用とまではならないように思います。
HondaのインターナルカーボンプライシングICPより高いという状況ですので、あくまでトライアルで下地を作っている段階といえます。
コスト面だけではなく、フレキシブルに、コンスタントに、そのサービスが使えるかどうかというのも重要かと思います。
いずれにしても、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げていますので、こういった課題を一つ一つクリアし、すべての輸送形態にて持続可能な燃料が活用できるように対応していく必要があると考えています。

  • 1https://global.honda/jp/sustainability/report/pdf/2024/honda-SR-2024-jp-004.pdf
  • 2企業が脱炭素を推進するために、独自にCO2排出量に対して価格を設定することでCO2排出コストを金額換算すること。
  • 3Knock Down(ノックダウン)物流の略称。製品を部品または半完成品の状態で輸出し、海外の工場で組み立てる生産・物流の方式のこと。
#02interview
株式会社ニコン
事業者紹介

高級一眼レフカメラをはじめとした光学機器や半導体関連機器を扱うメーカーとして、多種多様な分野で社会を支える製品とサービスを提供し続ける、株式会社ニコン。企業理念である「信頼と創造」を事業活動の中に具現化することで、持続可能な社会に貢献しつつ、自社の持続的成長を図ることをめざす「サステナビリティ方針」を掲げている。
今回は、物流を担うロジスティクス部門で製品の出荷を統括・管理し、サプライチェーン事業プロセスの一角を日々円滑に支える重要な役割を担うスタッフの方に本助成事業を利用したきっかけや自社の今後の展望をうかがった。

Q.環境問題に関してどのような取り組みを行っていますか?
A.

ニコンでは、2006年からCSR報告書1を、2016年からはサステナビリティレポート を毎年開示しています。
また、SBT2の認定を受けたうえで2030年と2050年における弊社のCO2排出削減目標を公表しており、目標達成に向けて工場の省エネや再エネ活用率の向上、サプライヤー様へのGHG排出量算定・削減の働きかけを行っています。
弊社の製品に関しては、「リブレットフィルム」という、サメの肌をモチーフにした人工的な微細構造をもつレーザー加工技術を開発しています。このフィルムを飛行機の機体や風力タービン、ガスタービン、ジェットエンジンなどに用いて、空気抵抗を少なくし、エネルギー効率の向上と燃費改善を図ることで、CO2 削減に貢献することができます。航空会社様との異業種コラボレーションという形で、脱炭素に向けた製品開発に向けて、実証実験から実用化に向けた取り組みを行っているところです。

Q.事業を利用する以前からSAFの活用に関心はありましたか?
A.

SAF活用はかねてから取り組みたいと考えていました。弊社の場合、物流を起因とするCO2の排出は、全体の1~3%程度ですが、その内の87%が国際間の航空輸送を起因とするものとなっております。
海上輸送の場合はコンテナの積載率を上げることや、梱包の工夫といったオペレーションの改善によってCO2を削減することが可能です。一方で航空輸送の場合はオペレーション改善によるCO2削減が難しい面があります。
そのような事情もあり、航空輸送におけるCO2削減を進める手段として、SAFを活用することに着目をしていました。

Q.今回、SAFを活用した航空貨物配送を利用してみようと思ったきっかけや目的は何ですか?
A.

物流分野において、CO2排出量を算定する際には「距離×重量×排出原単位3」の算定式が用いられます。この算定式からCO2排出量を削減するためには、距離や重量を小さくするか、あるいは、原単位を小さくしなければなりません。ですが、航空輸送において距離や重量の縮小は難しいため、CO2削減のためには排出原単位を小さくせざるを得ません。  
一方で、排出原単位を抑えるためにSAFを活用した航空輸送を選択すると、コストがかかります。前述のとおり弊社全体のCO2排出量のうち物流を起因とする排出は弊社全体の排出量の1~3%でしかないため、仮に排出量を10トン減らしてもコスト面含めても成果ということはできないでしょう。  
このような背景がある中で、たまたま今回の助成事業を発見しました。SAFを活用してみたいがコストが気になると思っていたため、今回の助成事業を発見した際は「我が意を得たり」と思い、早速、上長に助成事業の活用を提案し、有難いことに即決していただきました。 SAF利用はコスト面が大きなボトルネックでしたが、今回助成事業を利用したことにより環境への取組の一環としてSAFを活用するきっかけを作ることができました。

Q.SAFを活用した配送により、どのようなメリットがありましたか?
A.

今回の助成事業を利用したことにより削減できたCO2の量は、弊社全体の排出量の中では大きなものではありませんが、別な側面から全く意外なメリットを感じることができました。
ロジスティクス部門では、航空・海上含めた国際輸送の提携業者を決める入札を行っておりますが、提携業者選定の際に、価格のみではなく、長期的に信頼できるパートナーを選定しようという方針で選定を進めています。 この度、日本通運様に相談させていただき本助成事業を利用しました。 一般に物流事業者様との日常の取引の際には、コストや輸送時のダメージリスク、リードタイムに関してシビアな折衝の発生が避けられない関係にあるという事実があります。 しかしながら、今回の助成事業を利用しながら、地球環境の向上に向けた取り組みを一緒に推進していくことで、日常のビジネスパートナーとしての関係性とは異なる新たな関係性を構築することができました。
利益に直結する部分以外の領域でパートナーシップを醸成することで、通常業務の遂行では発見することのできない付加価値を生み出す可能性があるのではないかと個人的に感じております。

Q.今後もSAFを利用した配送をしてみたいと思いますか?
A.

弊社の場合、メインで使用している輸送手段が航空輸送であることから、CO2排出量削減のために今後もSAFを利用したいと思っています。  
外資系のSAF利用サービスの中には、安価なものや、1トンから利用可能なものもあり、少しずつ利用促進が進んでいると感じています。今後、SAFの活用がどこまで広がるかは供給量と価格の兼ね合いの問題になるのではないか思います。 また、欧州の会社などは入札や相見積もりの条件としてSBT認定や、ISO140014を取得していることを条件として明示されることがあります。 国内でも企業選定の際に環境に対する取り組みを実施していることが条件として加えられた場合、SAF利用への需要も増えてくるのではと想像しています。 一方で、物流の現状を見たときに、まずは航空機輸送におけるスペース不足と需要過多、陸上輸送における2024年問題といった課題の対応も同時に進めなくてはならない状況かと思います。
いずれにしても、今回の助成事業の利用は来年度のサステナビリティレポートにて報告・紹介していきたいと考えています。「文化のひとつとして継続するべき取り組み」と肯定されるような社風でもありますので、今後のSAF利用もそれほど抵抗なく続けられるのではないかと思っています。
今回の助成事業の利用をきっかけとして、来年度以降も少しずつでも同様の取り組みを推進していこうと現在社内で話を進めているところです。

  • 1企業が組織活動を行うにあたって担う社会的責任(CSR)に関する自社の取組状況について、投資家向けに公表しているレポート
  • 2国際的な共同イニシアチブである「Science Based Targetsイニシアチブ」による、企業がパリ協定に準じた温室効果ガスの排出削減目標を設定していることを示す認定
  • 3物流におけるCO2排出量を算定する算定式。重量と距離をかけたものに、輸送手段に応じたCO2排出量を掛け合わせることで企業活動におけるCO2排出量を算定していく。
  • 4国際標準化機構(ISO)が定める環境マネジメントシステムに関する国際規格群の総称
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